いよいよ表面化する「パイロット不足」という現実
近年、航空業界全体で深刻化している「パイロット不足」。
それはもはや一部の地方路線やLCC(格安航空会社)に限った問題ではなく、日本の空全体に広がる構造的課題となっています。
コロナ禍による運航制限や人材流出、さらに国際的な需要回復のスピードが重なり、いまや「経験のある操縦士の確保」は各社の最重要テーマとなっています。
そんな中、スカイマークが2025年冬に「パイロット採用説明会」を実施するというニュースは、業界関係者に大きな注目を集めています。これまで静かに進んでいた“採用再開の動き”が、いよいよ本格化してきたのです。

スカイマークが動いた理由:採用説明会の狙いとは
スカイマークは、11月から12月にかけて、機長および副操縦士経験者を対象とした採用説明会を実施します。対象は、国内の定期航空会社で乗務経験のあるパイロット。会場は東京・浜松町周辺で、オンライン開催は行われません。
これまで同社は、自社養成や既存のパイロット育成で人材を補ってきましたが、ここにきて「経験者の即戦力採用」へと舵を切った格好です。背景には、737MAXの導入や運航便数の増加による乗務枠の拡大があります。
また、羽田空港ベースでの運航を行うスカイマークは、安全運航と効率性の両立を図るため、居住地条件を厳格に設定しています。
これは安全文化の根幹であり、日々の運航スケジュールを安定的に維持するための重要な要素でもあります。

航空各社で進む「経験者採用」の波
スカイマークに限らず、航空各社で経験者採用の再開が進んでいます。
ANA・JAL両社は、自社養成訓練の再開を発表したほか、地方航空会社やLCCも順次、操縦士採用を再開しています。
- ANAグループ:2025年度より自社養成パイロット採用を本格的に再開。国際線拡大を見据えた人材強化。
- JALグループ:既卒・経験者採用も再開傾向。
- ZIPAIR Tokyo:操縦士経験者の募集中。
- Peach Aviation:関西・成田ベースを中心に、若手副操縦士候補の採用を強化。
- 地方航空会社(FDA、ORC、HACなど)も地域路線維持のため、定期的に採用活動を実施中。
このように、国内航空会社の多くがパイロット不足を“待ったなし”と捉え、即戦力採用と育成投資の両輪で対応を進めています。

深刻化するパイロット不足の背景
では、なぜここまでパイロット不足が深刻化しているのでしょうか。
背景には、いくつもの構造的要因が重なっています。
コロナ禍による大量退職と再訓練の遅れ
2020年以降のコロナショックでは、世界中の航空会社が運航便数を大幅に削減しました。
この結果、多くのパイロットが休職・転職を余儀なくされ、業界を離れた人も少なくありません。
さらに、再雇用にあたっては機種移行訓練(リカレント)が必要で、これに時間とコストがかかるため、訓練キャパシティの逼迫が起きています。
ベテランパイロットの大量定年
日本の航空業界では、団塊世代の大量退職が進んでいます。
長年にわたり運航の中核を担ってきた機長クラスの引退が重なり、技能と経験の継承問題が顕在化しています。これは国内だけでなく、米国・欧州・アジア各国でも同様の現象が進行中です。
教官・訓練インフラの不足
航空大学校や各社の訓練センターは、限られた機材・教官で運営されています。
そのため、養成ペースが需要に追いつかず、「採用したくても育成できない」というジレンマが発生しています。
特に737MAXやA320などの新機材への移行が進む中で、型式訓練(Type Rating)に時間と費用がかかることも課題です。
世界的な競争激化
現在、世界的にもパイロット不足が進んでいます。
ボーイング社の最新予測(Pilot and Technician Outlook 2024)によると、今後20年間で世界全体に約64万人の新規パイロットが必要とされています。アジア太平洋地域だけでも25万人以上が必要とされ、日本もその一部として深刻な人材不足に直面しています。
特に、米国や中東、アジア新興国では待遇改善が急速に進んでおり、日本のパイロットが海外へ流出する動きも見られます。
このままでは、日本が世界の人材獲得競争に取り残されるリスクが高まっているのです。

待遇の見直しが急務
日本国内では、給与水準や勤務体系が海外に比べて見劣りするケースもあります。
例えば、アメリカでは副操縦士でも年収が2500万円を超えることが珍しくなく、機長クラスでは7000万円を超える場合もあります。
一方、日本では同等の経験を持つパイロットが1000万~3000万円前後に留まるケースも多く、
この待遇差が人材流出や志望者減少の一因になっているのです。
したがって、日本が世界的なパイロット獲得競争から取り残されないためには、待遇や労働環境の改善が急務です。
安全を守る最後の砦である操縦士の地位を、再び社会全体で見直す必要があります。
パイロットになるには ― 現行ルート完全ガイド
パイロットを目指す方法は、現在大きく3つのルートに分かれています。
航空大学校ルート
国土交通省管轄の「航空大学校」は、最も正統派のルートです。
学費が抑えられ、卒業後は各航空会社への推薦・採用のチャンスが高い点が特徴です。
ただし、競争倍率は依然として高く、英語力・身体適性・学力のバランスが求められます。
自社養成ルート
ANAやJALなど大手航空会社が行う「自社養成制度」も人気があります。
大学在学中から応募でき、採用後は会社負担で訓練を受けられます。
ただし、競争率は半端ありません。航大+自社養成で考えるのが無難でしょう。
自費留学ルート
私大を含め、海外づらいとスクール(米国・カナダ・オーストラリアなど)でライセンスを取得し、日本のJCAB免許へ切り替える方法です。
費用は高額(1500万円以上)ですが、社会人からでもライセンスを取得し、パイロットに挑戦できる点が魅力です。
どのルートでも、英語力は必須。訓練や試験、運航現場では英語によるコミュニケーションが求められるため、早い段階での対策が鍵となります。
特に、オンライン英会話「NativeCamp(ネイティブキャンプ)」は、実際の航空用語や英語リスニングを鍛えるのに最適なツールとして評価が高まっています。
日々の訓練前後のスキマ時間で、英語力を効率的に強化できるのは大きなメリットです。
未来のパイロットに求められるスキルと資質
今後の航空業界で活躍するためには、単なる操縦技術だけではなく、総合的なヒューマンスキルが求められます。
- 判断力・冷静さ:緊急時における瞬時の判断が安全を左右します。
- コミュニケーション力:多国籍クルーや地上スタッフとの連携が不可欠。
- デジタルリテラシー:EFBやAI支援システムなど、新技術への適応力。
- 英語力と国際感覚:ICAO英語レベル4以上は必須。
さらに、近年ではメンタルヘルスケアや体調管理の重要性も高まっています。
健康管理を含めた「持続可能な操縦士ライフ」が、今後の新しいテーマです。

航空業界全体の今後10年 ― パイロット職の価値はどう変わるのか
今後10年、パイロットの価値はさらに高まると予測されています。
航空需要は世界的に右肩上がりで、ボーイングやエアバスは新機材の大量導入を進めています。
一方で、自動化やAIの発展により、操縦士の役割は「操縦者」から「運航マネージャー」へと変化していくでしょう。
ただし、どれほど技術が進化しても、最終判断を下すのは人間です。
AIが安全運航を支援する時代だからこそ、“ヒューマンパイロット”の判断力・経験・直観的対応力がより重視される時代が来ます。
空への夢を再び
パイロット不足は危機であり、同時に大きなチャンスでもあります。
航空需要は再び上昇基調にあり、世界各国が優秀な操縦士を求めています。
スカイマークの採用説明会は、その流れを象徴する出来事です。
日本の空の未来を担う次世代パイロットにとって、今こそ行動を起こす最良のタイミングと言えるでしょう。
「空を飛ぶ夢」を持つ人が再び増えること。
それこそが、日本の航空業界を再び輝かせる第一歩になるのです。